4) 結語
本稿は、南アジアの農業・農村事情を紹介する中で、食料と人口という2つの変数の間の単なる算術ではとらえることができない、いくつかの重要な問題を論じてきた。まず第1に、「飢餓と飽食」の矛盾を強調する論理から生まれる分配偏重の考えは誤りであり、飢餓の生じているその地における食料増産なしには問題の解決が困難であることを強調した。これを敷衍するならば、「緑の革命」の素通りした地域でも、労働者が先進農村へ移動することによる予定調和的な調整メカニズムを想定して(むろんそうした傾向があることを否定するわけではない)放置するのではなく、農業振興に力を入れることが重要であろう。そのための最も有効な手段は、条件の厳しい地域(や作物)を対象とする試験研究に加え、灌漑、道路、市場、電化、銀行、学校など農村インフラと総称されるものの拡充整備である。第2に、「緑の革命」による生産力増進が所得分配の不平等を招くようであれば、効果は半減する。冒頭に述べたように、飢餓は購買力の不足によって生ずるものだからである。かかる意味で、南アジアでは、管井戸の開発・管理のためのより適切な制度の確立に知恵をしぼっていくことが重要であろう(地下水の持続的利用の観点からも重要である)。さらに公平を伴う成長の基盤として、地域によっては土地改革が依然重要な政策課題である点にも注意を喚起しておきたい。第3に、農村の貧困層をターゲットとした諸政策は、それが貧困層の食料エンタイトルメントを高め、また環境劣化の緩和を通じて人口増加の抑制といった副次的な効果すら期待できるのであり、「緑の革命」戦略と並行して引き続き重視されるべきであろう。
なお本稿では、紙面の制約上、農産物の価格・流通政策や、農業インプットヘの補助金問題、農業課税の問題など、すべて割愛せざるを得なかった。これらについては他の文献を参照されたい14。
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